東京地方裁判所 昭和60年(特わ)2557号 判決 1985年12月25日
本店所在地
東京都足立区柳原一丁目一六番三号
株式会社 報徳金属
(右代表者代表取締役金山好佑
右同
金山禎佑)
本籍
東京都足立区柳原一丁目一六番地の五
住居
同都同区千住関屋町一七番一五-二-一二一〇号
会社役員
金山好佑
昭和一〇年二月一一日生
本籍
東京都足立区柳原一丁目一六番地の五
住居
埼玉県川口市大字峯一一七九番地の二
会社役員
金山禎佑
昭和七年一〇月一一日生
右の者らに対する各法人税法違反被告事件につき、当裁判所は、検察官會田正和、同八幡雄治出席の上審理し、次のとおり判決する。
主文
一 被告人株式会社報徳金属を罰金五〇〇〇万円に、被告人金山好佑及び同金山禎佑をそれぞれ懲役一年六月に処する。
二 被告人金山好佑及び同金山禎佑に対し、この裁判確定の日から三年間それぞれその刑の執行を猶予する。
三 訴訟費用は、その三分の一ずつを各被告人の負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
被告人株式会社報徳金属(以下「被告会社」という。)は、東京都足立区柳原一丁目一六番三号に本店を置き、弱電器部品の製造販売等を目的とする資本金八〇〇〇万円(昭和五六年九月九日以前は、二四六〇万円)の株式会社、被告人金山好佑、同金山禎佑は、いずれも、被告会社の代表取締役として、同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人金山好佑及び同金山禎佑は、共謀の上、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、製品の製造の過程で発生するアルミ屑の売上を除外するなどの方法により所得を秘匿した上
第一 昭和五六年六月一日から同五七年五月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が二億七〇一三万七一六四円あった(別紙(一)修正損益計算書参照)のにかかわらず、同五七年七月二七日、同都足立区千住旭町四番二一号所在の所轄足立税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一億三六七〇万六八八〇円でこれに対する法人税額が五二二一万四九〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和六〇年押第一三七〇号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額一億八二四万二一〇〇円と右申告税額との差額五六〇二万七二〇〇円(別紙(四)ほ脱税額計算書参照)を免れ
第二 昭和五七年六月一日から同五八年五月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億七四五八万五一五一円あった(別紙(二)修正損益計算書参照)のにかかわらず、同五八年七月二五日、前記足立税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が六二九二万四六八二円でこれに対する法人税額が二〇三四万四四〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和六〇年押第一三七〇号の2)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額六七二一万六四〇〇円と右申告税額との差額四六八七万二〇〇〇円(別紙(四)ほ脱税額計算書参照)を免れ
第三 昭和五八年六月一日から同五九年五月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が四億六六三五万七七〇九円あった(別紙(三)修正損益計算書参照)のにかかわらず、同五九年七月二七日、前記足立税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二億四一〇〇万三〇八四円でこれに対する法人税額が九七五二万八〇〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和六〇年押第一三七〇号の3)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額一億九五〇九万八七〇〇円と右申告税額との差額九七五七万七〇〇円(別紙(四)ほ脱税額計算書参照)を免れ
たものである。
(証拠の標目)
判示全部の事実につき
一 被告人金山好佑及び同金山禎佑の当公判廷における各供述
一 被告人金山好佑(三通)及び同金山禎佑(二通)の検察官に対する各供述調書
一 被告人金山好佑及び同金山禎佑作成の申述書と題する各書面
一 登記官作成の商業登記簿謄本
一 小林繁、金澤信義、山田一雄、福岡璋祐、小林和好、佐藤元子及び宮崎雄二の検察官に対する各供述調書
一 足立税務署長作成の証明書
一 収税官吏作成の次の各調査書
1 屑売上高調査書
2 たな卸高調査書
3 福利厚生費調査書
4 接待交際費調査書
5 運賃調査書
6 減価償却費調査書
7 受取利息調査書
8 支払利息調査書
9 価格変動準備金戻入調査書
10 価格変動準備金繰入調査書
11 損金不算入交際費調査書
12 事業税認定損調査書
13 減価償却費調査書(補正分)
14 事業税認定損調査書(補正分)
判示第一及び同第二の各事実につき
一 収税官吏作成の雑収入調査書
判示第一の事実につき
一 押収してある昭和五七年五月期の法人税確定申告書一袋(昭和六〇年押第一三七〇号の1)
判示第二及び同第三の各事実につき
一 収税官吏作成の外注加工費調査書
判示第二の事実につき
一 押収してある昭和五八年五月期の法人税確定申告書一袋(昭和六〇年押第一三七〇号の2)
判示第三の事実につき
一 収税官吏作成の益金不算入受取配当調査書
一 押収してある昭和五九年五月期の法人税確定申告書一袋(昭和六〇年押第一三七〇号の3)
(法令の適用)
一 罰条
1 被告会社
判示第一ないし同第三の各事実につき、法人税法一六四条一項、一五九条一、二項
2 被告人金山好佑及び同金山禎佑
判示第一ないし同第三の各所為につき、いずれも刑法六〇条、法人税法一五九条一項
二 刑種の選択
被告人金山好佑及び同金山禎佑につき、いずれも懲役刑を選択
三 併合罪の処理
1 被告会社
刑法四五条前段、四八条二項
2 被告人金山好佑及び同金山禎佑
刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(いずれも犯情の最も重い判示第三の罪の刑に加重)
四 刑の執行猶予
被告人金山好佑及び同金山禎佑につき、いずれも刑法二五条一項
五 訴訟費用
被告会社、被告人金山好佑及び同金山禎佑につき、いずれも刑事訴訟法一八一条一項本文
(量刑の事情)
被告会社は、昭和五二年二月に被告人金山好佑及び同金山禎佑兄弟によって設立され、アルミリード端子、アルミケースなど電解コンデンサー部品の製造、販売などを主たる営業内容とし、被告人金山好佑が代表取締役社長として製造部門を担当し、被告人金山禎佑が代表取締役専務として営業、経理部門を担当しているものであるが、被告会社では、昭和五三年ころから製品の売上の増大に伴い製品を製造する過程で発生するアルミ屑の売上も増大していたところ、被告人両名は、共謀の上、被告会社の簿外資金をねん出するためにアルミ屑の売上の一部を除外し、除外分につき被告会社の法人税を免れようと企て、昭和五七年五月期から同五九年五月期までにアルミ屑の売上の一部を除外するなどの方法により脱税を重ねていたものである。ほ脱税額は、三事業年度分の合計で二億円余と他の法人税の脱税事案と比較しても多額である上、ほ脱税率も五〇パーセント以上であって被告会社の事業内容を考えると高率である。被告人両名は、本件の動機は、製造技術情報の入手、製品販売先の確保等のために支出する接待交際費の資金や不況時の備えのための資金を蓄えたいという気持ちからであった旨述べるが、動機が右のようなものであったとしても、そのために被告会社の所得を秘匿し、法人税を免れるに至っては目的のためには手段を選ばないものとして非難されるべきである。しかも、被告人両名は、アルミ屑の売却先に売上除外の協力を依頼し、昭和五四年一月ころから計画的にアルミ屑の売上の一部除外を行ってきたものであって、本件三事業年度分だけでもアルミ屑の売上除外額は合計五億円余にのぼり、この被告会社の簿外資金から福利厚生費、接待交際費を支出し、被告会社の仮名預金を設定する傍ら、被告人両名の個人的な交際費や生活費を支出したり、個人の預金口座に預け入れるなどしていたものであって、個人的な消費、蓄財の意図も否定し難い。以上のとおり、本件の結果、態様等に鑑み被告人両名の刑事責任は重いというべきである。
しかし、被告会社においては、修正申告の上、被告人両名の裏預金の解約等により、本税、重加算税、延滞税、地方税をすべて納付していること、被告人両名は、これまで製造業に従事し、被告会社設立後は共に同社の維持、発展に努力してきたもので、従業員四〇〇名の同社にとりかけがえのない人間であると認められる上、事実を認め、被告会社の事務処理体制を変えるなど今後の過ちなきことを誓っていること、また特に前科もないことなど斟酌すべき事情もあるので、これらを総合勘案し、被告人両名につきその刑の執行を猶予することとし、主文のとおり量刑する。
(求刑被告会社につき罰金六〇〇〇万円、被告人金山好佑及び同金山禎佑につきそれぞれ懲役一年六月)
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 石山容示)
別紙(一)
修正損益計算書
株式会社報徳金属
自 昭和56年6月1日
至 昭和57年5月31日
<省略>
別紙
修正損益計算書
自 昭和56年6月1日
至 昭和57年5月31日
<省略>
別紙(二)
修正損益計算書
株式会社報徳金属
自 昭和57年6月1日
至 昭和58年5月31日
<省略>
別紙
修正損益計算書
自 昭和57年6月1日
至 昭和58年5月31日
<省略>
別紙(三)
修正損益計算書
株式会社報徳金属
自 昭和58年6月1日
至 昭和59年5月31日
<省略>
別紙
修正損益計算書
自 昭和58年6月1日
至 昭和59年5月31日
<省略>
別紙(四)
ほ脱税額計算書
株式会社報徳金属
自 昭和56年6月1日
至 昭和57年5月31日
<省略>
自 昭和57年6月1日
至 昭和58年5月31日
<省略>
自 昭和58年6月1日
至 昭和59年5月31日
<省略>